吉久直志おすすめ映画紹介「新感染ファイナル・エクスプレス」

この映画の秀逸なのはゾンビ映画と言うジャンルを利用して、災害パニック映画を作った事だろう。

この映画においてゾンビが生まれることは状況でしかなく、その災害のなかでいかに生き延び、理性を保ち、人でいられるのか？を描いた作品なのだ。故にゾンビは全て背景と言ってもいい。

この手の作品にありがちなグロテスクなシーンも無く、ホラーとしての要素も薄いと言っていいだろう。

だからこそ、ホラー嫌いな人でも見ることが出来るゾンビ映画と言える。

余談だが、ホラー嫌いの僕の妻もこの映画を観ながらボロ泣きして、見終わった後に「いい映画だった」と言ったほどの実績があります。

ただゾンビ映画である以上は、やはりビックリやら恐怖やらは有ります。

が、それはお化け的な怖さではなく、ゾンビから逃げるハラハラであり、人の怖さや醜さであり、迫る津波から逃げる怖さに似た感覚の怖さが殆どです。

この映画の中で、仕事人間の主人公は初めて娘と二人きりになりまともに会話をすることになります。

極限状態でも老人に席を譲ってあげる人間的優しさを見せる娘を叱るダメ人間の主人公。

まあ、誰も共感はしないであろう主人公の周りに、様々な人間味溢れる登場人物が集まり、そして死んでいきます。

その中で、生きるために必要なのは、

割りきる心か？
人間性か？

が常に問われます。

感染者に疑われた主人公たちは、安全な車両から追い出され、ゾンビが迫る車両と車両の間で次の手を考えねばなりません。

平時に見れば、この手の映画によく出てくる悪者な人々の差別行動も、この新型コロナが拡大する今の世の中では、実は本当によくある事なんだ。

自分だけ助かりたいエゴで平気で嘘ついたり、罵倒したり、疎外する馬鹿はすぐそばにいるんだと実感をもって感じられるかもしれません。

この映画の邦題にもなっている「新感染」はもちろん「新幹線」とかけてあるわけで、舞台は常に釜山へ向かう超特急の中。被害がどこまで広がってるか分からない中、ただ一縷の希望をもって釜山を目指す登場人物たち。

ゾンビといっても最近の「ドーン・オブ・ザ・デッド」や「28日後」「ワールド・ウォー・Z」と同じく生きた人間が凶暴化したゾンビなので、兎に角元気！早い！！無駄に多い！！

その襲いかかり方もアニメ監督ならではの見事な演出で、けして緊張感が切れることなく二時間を走り抜けます。

かくして、主人公達は生き延びることが出来るのか？
親子の絆は取り戻せるのか？

コロナで家から出られなくなったこの時期、この映画を家族で楽しむのもいいかもしれませんよ。